さらしの廻祈譚
01. 白き地 (1/1)
魂は巡り巡って次の命へと宿るのだと、そんな話を聞いたことがあるだろう。転生輪廻、よくある死生観である。
では「魂はどこをどのように巡り巡るのか」は知っているだろうか。
「父様」
トトッ、と小さな足音を立てて少女が駆ける。導くように並ぶ庭石の上を渡り歩きながら、彼女は子供らしく着物の裾を広げて駆け寄る。
抱きついてきた彼女を受け止めて、男は再び空を見上げた。昼間の空、瓦屋根と生垣に囲まれた庭の上空に星がふわふわと走っている。太陽光の届かないこの場所で、まるで内側に秘めていた光をじわじわと解き放っているかのように発光しつつ、どこかへとゆっくり飛んで行く。
あちらの世界の飛行機雲のように光の尾を引いて、彼らは地の果て――彼らが再び生を受ける世界へと向かっていく。
「父様」
少女が空を指さす。小さな指先がとある一つの星を辿る。
「綺麗」
「そうだね」
「ねえ父様、あれは更魂なのでしょう?」
少女が明るい声音のまま問う。
「記憶や思い出を全て失って、新しい人生を迎える準備ができた真っさらな魂。この白篠の地を彷徨う魂はほとんどが更魂なのでしょう? ならなぜ、あんなにも光っているの? 魂の輝きは記憶や思い出の輝きだと殊応は言っていたの、だからあちら側から川を下ってきたばかりの魂はとても眩しいんだって。なら何も持っていないはずの更魂が光るのはなぜなの?」
「薫子は物覚えが早いね」
男が少女の頭を撫でる。穏やかな面持ちをさらに柔らかく笑ませ、和装の男は言う。
「それはね、魂そのものが光るものだからだよ」
「魂は光るものなの?」
「そうだ。だから人は人を頼り、頼られ、縋り、縋られ、導き、導かれることができる。あれは人の本質だ。人の魂は光であり、人はそれに自らという独自の輝き方を記憶や思い出という形で積み込みながら生き、そして死ぬんだ」
「ふうん」
少女は眉根をひそめて鼻を鳴らす。よくわからない、と言いたげだった。それでもその眼差しは澄み、空の流星群を忙しなく見つめている。
「ねえ父様」
空へと差し出された小さな手が星々へと振られる。
「また、あの魂達に会えるかな」
「会えるとも」
男は頷いた。
「ここは白篠の地、片世から現世への唯一の通り道にして、二つの世の境に住まい理を守る守人と式鬼の拠点の一つ。時の流れは無に等しく、我らは人ならざる永き魂の者。――また会えるよ。必ず」
「うん」
少女が腕ごと大きく手を振る。
「みんな、またね。元気でね」
――星が流れる。ゆらり、ゆらりと光が揺れる。内側からこぼれ出るようなそれらへと、少女はひたすらに手を振り続けていた。
Why, let the strucken deer go weep,
The hart ungallèd play:
For some must watch, while some must sleep;
Thus runs the world away.
(c) 2014 Kei