短編集
11. お題作品まとめ (1/2)


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#窓から見える景色
#写真
#空
#夕焼け色に染まる雲
#窓枠の向こうの景色
#カーテンを開けてみたら

 カーテンの隙間から差し込んでいた光が、その輝かしいほどに真白だった色味をじわりじわりと変えていく、澄んだ空気が触れられそうなほどハッキリとした赤色に近付いていく、そんな時間経過を目の当たりにしまして。午後から日差しがまぶしくなる部屋なのでカーテンを閉めていたんですが、思い切って開けてみました。
 なんだかダシたっぷりの親子丼みたい笑 もう少し日が沈めば、雲も虹色になったのかな。
 窓開けるの忘れたので少し室内が映り込んでいますが見なかったことにしてください笑 窓を開けないと、まるで表面をニスで塗りたくった絵画みたいになって、これはこれでいいなって思ったんです。
 この綺麗な景色がみなさんに伝わりますように。


解説

2023年09月26日作成

 お題アプリ「書く習慣」にて、お題「窓から見える景色」。
 このアプリ、他の人の作品が見れるんですが、多くの人がお題を冒頭や最後に書いていて、その書き方が
 ~お題~
 だとか、
 「お題」
 だとか、
 #お題
 だとかで、なんか某写真SNSっぽいなあと思って。実際の写真を思い浮かべられるような文にしました。


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秋の色は恋の色



 おや、何かと思ったら庭の楓の木から落ちてきた落ち葉だったか。そんなことを言いながら鼻先をふすふすと足元の葉に近付ければ、緑色を赤色へと変えた葉を未だ大量に抱えた楓の木は「散歩の邪魔をしてすまないね」と枝を揺らした。
「猫は毛色を変えないのかい?」
「変えないね。他の動物には変える奴がいるらしいが」
「変えてみれば良いのに」
「そんなポンポンと変えられるものじゃないんでね」
 たしたし、と地面を足先で叩く。
「我々は生まれながらの姿で生き抜くのさ。……成長するにつれ模様が変わる猫はたまにいるが」
「生まれながらの姿か。それも良い。私達は毎年、ひととおりの姿を経るけれど、それはそれで風情があると人間には好評なんだよ」
「知ってらあ。うちの主人もその点を気に入ってお前さんを植えたらしいしな」
 楓の木はたいそう満足げに体を揺らした。さやさや、と木の葉が音を立て数枚が落ちてくる。それへと前足を伸ばしてみた。
 人間と違い指のない足先は、葉を掴むことはできなかった。
「人間は何かと木々の色合いを気にする。てらいもなく美しいだ何だと口説く。横で聞いているこっちが猫肌もんだよ。――この際だから尋ねるけども、お前さんは何で赤くなるんだ? 空の青でもなく、雲の白でもなく、三毛猫のまだらでもなく、なぜ赤なのか」
「野暮だねえ。赤に染まると言えば、答えは一つじゃないか」
 くすくすと楓の木は笑った。陽気なそれは、照れ隠しにも見えた。
「秋だからだよ」
 秋、ね。秋ねえ。秋、秋か。わざと繰り返して言えば、楓の木は「相思相愛なのさ」と嬉しげに答えた。


解説

2023年09月26日作成

 秋と猫は相性が良い。
 お題「秋(赤くなった葉っぱの絵文字)」。絵文字つきだったので、赤くなった葉に関連した「秋」のお話にしてみました。葉が散って寂しいというよりは、赤くなる=頬を赤くする、の方に。きっと、この楓の木は毎年恋をしているんですね。


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今日の象徴



 帰り道の途中に呼び止められたので、公園の中のブランコの一つに腰かけた。
「まだこのブランコあったんだねえ」
「長いもので、四十年ほどになります」
「私より年上だった」
「なあに、すぐに追い抜きますよ。というのもわたくし、明日には取り壊されるのです」
「冬前だから外すのではなく?」
「古いですから」
 きい、きい、ときしむチェーンを握り込むけれど、握力の落ちた手には痛いなあとしかわからなかった。子どもの頃は平気で何十分とブランコ遊びをしていたものだが。
「寂しいね」
「悲しいですなあ。どうにも虚しかったので、たまたま見かけたあなたを呼び止めてしまったのです」
 暗くなってきたので、私はブランコから立ち上がった。帰るね、と昔の私と同じように言えば、「またね」「また明日ね」と返してくれたそれは今日に限って違うことを言う。
「人間というのは明日のために今日を置いていく生き物なのですが、わたくしはとうとう『明日』の象徴ではなく『今日』の象徴になってしまった」
「象徴」
「あなたは今から、『今日』とお別れをするのですよ」
 なるほど、と私はよくわからないまま相槌を打った。
 歩いて、そして振り返って、昔の私のようにそちらへ手を振って。
 ――またね、は言えないと気付いて。
「……呼んでくれてありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました」
 無難に言った挨拶を過去形にして返されてしまった。
 別れ際じゃなければ、ただの業務的な締めの言葉だったのに。ブランコのくせに日本語をわかりすぎているヤツである。


 翌日、帰り道に通った公園に、ブランコの姿はなかった。今後呼び止められることもないだろう。


解説

2023年09月28日作成

 お題「別れ際」。あまり「際」ってほどじゃないかもしれない。
 前の作品から人じゃない何かがしゃべっていたので、今作もその系統にしてみました。
 明日またこのブランコで遊ぼうね、またね、また明日ね、という「明日」の象徴だったブランコがとうとう「今日」の象徴になったお話でした。今日は楽しかったなあ、の「今日」ですね。ブランコの口調は悩んだんですが、親しい風ではなく紳士風にしました。なかなか良い。
 ブランコ、小さいときは全然気にならなかったんだけど、あの鎖のところ、握ってると手に食い込んだり皮膚が挟まったりしてけっこう痛くない? 私だけですかね。


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ひとり



 例えばあなたの「おやすみ」を聞いた直後、あなたの「行ってきます」を聞いた直後。二人で毎日を過ごしているこの部屋で、わたしが一人きりになる瞬間。
 わたしは「静寂」というものを、静かな寂しさというものを体感するのです。


解説

2023年09月30日作成

 お題「静寂」。
 静か、というお題だったので、ごちゃごちゃ長ったらしく書かない方が良いなと思ってこうなりました。静寂を体感する時って、周りが静かな時よりも、今まで隣に複数人いたのに突然ひとりぼっちになった時だと思うんです。


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名月



 夜、どうにも眠れなかったので巣穴の外に出てみたら、まんまるお月さまがどぉんとお空にいらっしゃった。
「あいや、旦那、今日はずいぶんとべっぴんさんじゃァないかい」
 ひょこひょこと長い両耳を驚きで動かせば、お月さまは「ああ、ウサギのワカちゃんじゃないか」と懐かしい呼び名で呼んでくる。
「今日は中秋の名月ってやつだよ」
「ほぉんなるほど、今日はべっぴんさん確定の日かね。まあ旦那はいつだって美人だがな」
「わかってるねえ。でも今日は特に美人だよ。何たって満月さ」
 お月さまはご満悦な様子でにこにこ笑う。金色の光がテカテカと空を照らす。暖かくはないが眩しいそれは、花の一つくらい間違って咲きそうなほどだ。
「しっかし残念だなァ。うちの子らはみィんな寝ちまった」
「じゃあ明日はどうだい?」
「明日は中秋じゃなかろ。それにちいとばかし欠けちまう」
「大して変わらないさ。私は常に美しいからね」
 お月さまは体をくるりと転がした。丸すぎて誰もそのことに気付きやしないだろうが、確かにころりと一回転した。
「明日、みんなで見においで。ここで待ってるから。なに、今日が中秋の名月だって言うのなら、きっと明日も中秋の名月さ」
「旦那が言うなら、確かにそうさなァ」
 風が吹いてススキが揺れたので、合わせて耳を揺らしてみた。「笹の葉、さーらさら。ススキもウサギも、ゆーらゆら」とお月さまがご機嫌とばかりに変な歌を歌った。


解説

2023年09月30日作成

 お題「きっと明日も」。これを書いた前の日がちょうど中秋の名月で、しかも満月だったんですよね。綺麗でした。「きっと明日も」というお題を陽気な意味で捉えたかったので、ご機嫌なお月さまに言ってもらいました。
 自分の美しさを疑わない美人は良いぞ。


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わたしはだあれ?



 たそがれ、誰そ彼。夕闇に埋もれるあなたはどなた?
 その問いに普通に答えてしまっては少々つまらないというもの。ぜひ当ててみてくださいな。
 わたしの大きさはしっぽを含めて一メートル以内、四つ足を地面に着いた状態での背丈は五十センチ程度でしょうか。そう、中型犬程度ですね。しっぽは長めでふわふわ、顔はキリリとした肉食動物顔です。口と鼻が尖っていて、両の目が正面についています。目はネコと同じく瞳孔が縦長になります。毛は黄金色が多いですかね。可愛いでしょう? 可愛いですよね? 牙も肉食動物並みのやつです。ええ、肉食です。ネズミやウサギを食べますよ。くだものや木の実も食べますがね。鳴き声は「コーン、コン」と表記されることが一般的かと。
 わかりましたか? まだわからない? 「わかったけど、君はどう見たって人間じゃないか」? おやおや、今は夕方、黄昏時です。あなたの見ている景色が正しいとは限りません。よもや化かされているのでは?
 ふふ、わたしの気まぐれに付き合ってくれたあなたにご褒美代わりの情報をプレゼント。


 わたしのしっぽ、実は九つあるんですよ。もっふもふです、もっふもふ。良いでしょう?


解説

2023年10月02日作成

 お題「たそがれ」。怪しかったり暗かったり寂しかったりするお話が多いんだろうなと思いつつ、これまた陽気な方に登場していただきました。難産だった記憶。いやあこのお題アプリ、あまり長々と文字を詰め込むと読みにくくて読みにくくて…ストーリーのあるやり取りが好きなばかりに短くまとめるのが苦手なので、毎回難産みたいなものです。
 「よもや化かされているのでは?」という「お前がそれ言うんかーい!」な文と、自分の九つの尻尾を「もっふもふ」な「ご褒美」と認識しているのがポイントです。


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巡る夢



 人は死ぬと星になると言いますが、実は生まれた時は世界のどこかで夢が生まれているのです。将来の夢、ではなく、寝る時に見る「夢」のことですね。
 あなたが生まれた時に生まれた「夢」は、あらゆる人の夢となり、世界中を旅します。ラクダに乗り、鳥になり、水に沈んでは竜と共に語らう。様々な人の様々な夢となることで、「夢」は想像力豊かになります。
 もしもあなたがあなたと同じ日に生まれた「夢」に出会えたのなら、その時間を大切にしてあげてください。旅の話を聞いてあげてください。そして、あなたの話をしてあげてください。何が好きで、何をしたいのか、現実的なものから幻想的なものまで何だって構いません。「夢」ですからね。その夜のあなたは、あなたとして好きなように語ることができ、思うがままに実現することができる、そんな素敵な夢を見ることができるでしょう。
 どうしても思い出せないけれど、とても良い夢を見た気がする――そんな朝はありませんか? それはきっと、あなたのために世界を巡っていたあなたの唯一の「夢」と出会い、語らったからなのです。


解説

2023年10月04日作成

 お題「巡り会えたら」。遠いどこかから、唯一のものが巡り巡って出会う、みたいなのを想像しました。生まれた時に同時に生まれる何かを考えた時に思いついたのが「夢」だったので、こうなりました。別れとか運命とかと関連づけられそうなお題だったので、明るい未来を感じられるようなお話にしましたね。私らしいお話に仕上がったと思います。


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Why, let the strucken deer go weep,
The hart ungallèd play:
For some must watch, while some must sleep;
Thus runs the world away.


(c) 2014 Kei