短編集
03. 冬になる (1/1)


 春の始まりは花の芽吹き、夏の始まりは日差しの強まり、秋の始まりは風の冷え込み。
 そして、冬の始まりは雪の降る空。
 季節は何かをきっかけにゆるりと始まり、そして終わり、次の季節へと繋がって一年になる。
 春、夏、秋、冬。四種の始まりは妖精によって紡がれる。世界中のあちらこちらにいる妖精が時を見計らって魔法をかけるのだ。
 冬の終わりには花の魔法、春の終わりには日差しの魔法、夏の終わりには風の魔法、そして。
「秋の終わりには――雪の魔法を」
 木々茂る森、褪せた緑色と土色ばかりのその場所は、日差しとは異なる光が天上から降り注いでいる。その中で彼女は跪いた。背にある四枚の翅は木の葉型で細く、鱗粉が輝いている。それを遠巻きに眺めるいくつかの人影もまた、似た翅を背に宿している。
「冬が訪れ、春に繋がり、夏を呼び、秋に変わり、そして冬となる、この一通りの巡りの一つとして今、この魔法を届けましょう」
 両の手を胸の前で組み、彼女はを垂れる。
「届けましょう」
「届けましょう」
 声が重なり、森に木霊する。
「届けましょう。祈りを、我らの季節の魔法を」
「幾度目かの冬が来たりて幾度目かの春が来たる、その巡りを今再び繰り返すために」
「時のために」
「命のために」
 途端、祈る彼女の服が、翅が、足先が、髪先が、鱗粉の輝きを宿し、その輝きが粉のように宙へと舞い上がっていく。光の粒が離れていくにつれ、彼女の体が端々から欠けていく。
 風に吹かれる砂のように、水に溶ける氷のように、その体は削れ、やがて。
 服も、翅も、微笑みも――全て、空へと消えていく。


 周囲よりも眩しい日の差す、森の広場。けれどそこには何もない。ただ、空白の地面が広がっている。
 ふと。
 ふわり、ふわりと。
 次々に。
 ――欠けゆく妖精の粒のように、白く輝きながら。
 降ってくる。
 空白の地面へ、森全体へ、空いっぱいに。
「雪だ」
 誰かが叫ぶ。
「雪だ」
「雪だ」
 その声に応えるように、降ってくる。
 雪。
 白く柔らかな、冷たい粒。
「冬だ」
 森のどこかで何かが言う。
「冬、冬、また冬が来た」
「季節が変わったよ」
「時は止まらなかったよ」
「彼女は冬になったね」
「命は回り続けるね」
「季節は巡り続けるね」
 歌のように誰かが言う。それはやがて笑い声になり、踊りの足取りが混じる。その中へ、白い粒がゆっくりと、道中を楽しむように、降りてくる。
 森へ、街へ。
 空を見上げる人々の手のひらへ。
 ――雪が、降ってくる。


解説

2022年01月11日作成

 Twitter企画「群逢賞」(公式Twitter:@books_meet_you)様に1月に参加した作品。お題は「雪」。字数制限3000字。
 …なのだが案の定字数ギリギリの内容を考えてしまうのであった。通常運転。主催様にも見破られるという。いつか字数気にせず書き直したいね! いつになることやら。
 雪が降る情景を綺麗に書きたかっただけというのは大いにありますね。その点褒めていただけてめっちゃ嬉しかった。感想があるって良いな…受賞には至らなかったものの、その理由も「小説というより詩っぽかった」とのことなので納得。詩という形態を理解したのここ一、二年なんですけど、そんな付け焼刃的な模倣文章を「詩」だと判断してもらえたのには驚きました。表現方法の幅が広がっているという判断で良いですか、良いですね。
 残念ながら第二回は参加ならずだったんですが、第三回以降また参加したいです。


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Why, let the strucken deer go weep,
The hart ungallèd play:
For some must watch, while some must sleep;
Thus runs the world away.


(c) 2014 Kei