短編集
09. TwitterSS 5編 (1/1)

***


【無題】



私は「私が年月をかけて考え出し近づけてきた理想的な私」が好きなのであって、私のことはほとんど好きではないのです。


解説

2022年06月11日作成

 深夜の思い付き。思い付きというか真理。「ありのままの自分を好きになろう」とか「ありのままの自分を受け入れてもらおう」とかよく言うけど、私はありのままじゃない着飾った自分の方がかっこよくて好きです。つか自分を好きになるために自分好みの自分を考えてそれに近付けてっていう努力をしてきた結果が今の私なので、この傑作が傑作なことは譲れない。


***


【曖昧模糊】



  わたしは痛みというのが興味深くてならないのです。痛みを負うことが好ましいというわけではなく、曖昧模糊とした自らの体の輪郭が――自らの足の小指の位置すら把握できないほど直感的で不確定な自らの手先足先が――痛みによって瞭然とするのが、面白く感ぜられてならないのです。
 そう言って彼は己の足の甲へ刃物を突き立てたのであった。


解説

2022年08月04日作成

 深夜の思い付き兼真理その2。足のどこかにあざを作った時に書いた気がする。
 人って自分の足の小指を把握できないみたいですね。「足を見ずに小指に触れてください」と言うと、高確率で皆薬指に触れるらしいです。たんすに小指をぶつけるのも、頭が小指を把握できていなくて小指分避けそこなうかららしい。曖昧模糊。それが痛みを負うことで判然とする。いつも面白いなあと思います。


***


【化石の空想】



 夢想家の友人に誘われて、彼の家に遊びに行った。
「こちらが当館の一番の目玉にございます……なんてね」
 そう言って友人が指し示したのは、部屋の中央に置かれた石だった。ただの巨大な堆積岩だ。割れ方は鋭利で、断面はつやつやと光り、暗灰色をしている。
「泥岩、いや頁岩か……」
「あのあたりをよく見たまえよ」
 何が特別なのかさっぱりわからない私へ、友人は岩石の一部を指差した。
「窪みが人の顔に見えるだろう? これは人魚の化石なのさ。海辺で見つけてね。ほら、下部に魚の尾の化石が薄らと見える」
「見たところサケ類の尾のようだが」
 私は彼へと視線を向け、そして彼の横顔を見、
「……君がそう言うのならそうなのだろうね」
 と呟いた。


解説

2022年08月06日作成

 Twitter企画「Twitter300字ss」様への参加作品。お題は「石」。
 頁岩は「けつがん」と読みます。泥岩の、もっと粒の細かい、圧縮された岩…みたいなイメージ…だった気がする(大丈夫か?)
 たぶんこの化石は人魚の化石ではないけれど、他人の夢想には水を差さないタイプの友情。


***


【星渡り】



 人の中には宇宙がある。人は体の中の宇宙を消費して生きている。そして死に際に残りの宇宙を体の外へ放出して流れ星となり、宇宙のあちこちの星を、かつての知人を訪れる。だから内側の宇宙を解き放って空を飛ぶことを私達は「星渡り」と呼ぶ。
 幼い私は宇宙を飛んでいた。内側から溢れる瑞々しい宇宙が星々を含んだ空気諸共私を吹き飛ばしていく。行く先に母がいた。流れ星となった母を追いかけて、私は星渡りをしていた。これが死に近い行為だとわかっていた。
「お母さん!」
 突然、体が強く後ろへ引っ張られた。父だ。父が私を星渡りから引き戻している。伸ばした手は母に届かなかった。
 ――ありがとう。
 遠のく星の光から、母の声が聞こえた。


解説

2022年09月03日作成

 Twitter企画「Twitter300字ss」様への参加作品。お題は「流」。
 気に入った創作設定を使いまわしてしまうこの現象。「星渡り」はツイッターの方で何度か話題にしてきた、とある日の夢で見たやつです。良いよねこれ。星渡りをしすぎると死神がやってくるんだけど、それでも「私」は母の元へと星渡りをするんだな…命がごりごり削られていく感覚がやばかった。命(宇宙)を使って空を飛ぶという原理なので当然なんだけど、目の端に死神の姿が見えた時「あ、死ぬな」って思った。
 ちなみに星渡りによって体の中の宇宙を使い切った人は、流れ星になることなく宇宙ゴミのようにその場に留まってしまう→死神が救いに来る(消失させられる)、という感じっぽい。


***


【まちぼうけ】



 あの笛の音が聞こえますか?
「……何のことです?」
 問い返せば、老人は首を振った。
「娯楽のようなものです。あれが聞こえずとも困りませんよ」
 ふむ、と唸り、私は耳を澄ませてみた。しかし人の足音と扉の開閉音と信号の音とが無限に重なった雑音しか聞こえてこない。ふむ、と私は再び唸った。
 私は道端に座り込み目を閉じた。花壇の花が枯れ、木枯らしが吹き、雪が降る、その中で私はじっと音を待った。
「いかがでしたか?」
 数年ぶりの老人の問いかけに、私は首を振った。
「全く」
 私は立ち上がった。
「なので、私から行こうと思います」
 私は歩き出した。いつまで経っても聞こえて来ない笛の音を探しに、その音へ会いに、私は私の足で歩き出した。


解説

2022年11月05日作成

 Twitter企画「Twitter300字ss」様への参加作品。お題は「来」。
 今回で企画最後だというので、未来に向けて明るい感じにしたかった。お題が「来る」なのに「行く」になってしまったな。「来る」というと黄泉からのお出迎えのイメージが強かったので…ちなみに今回はハーメルンの笛吹きイメージです。笛の音に誘われなかったから自分からそっちに行くことにしました。行動力。
 読解難易度が高かったのか、様々な感想をいただきました。伝えるって難しいな。解釈は自由にどうぞ派ではあるものの、予想していたのと違う解釈をされると「ほほう…」となります。


***


前話|[小説一覧に戻る]|次話

Why, let the strucken deer go weep,
The hart ungallèd play:
For some must watch, while some must sleep;
Thus runs the world away.


(c) 2014 Kei