短編集
35. このひとときはきっと幸せだ (1/1)
欲しいものほど手に入らない、という言葉はあまりにも傲慢だなと私は思います。なぜなら私達の手元には必ず何かしらがあるわけで、そしてその全てが私達の望まなかったものというわけではないからです。私達は欲しいものを手に入れた瞬間、それを「欲しいもの」から「欲しかったもの」へと変換し、「欲しいもの」として認識しなくなるのです。
「きみは面白い話をするね」
あなたは私の主張をまるで物語のように評します。私はそれが気に入りません。この話は創作物ではなく事実であり体験談なのです。現に、あなたは私の欲しいものだったのです。私の話を最後まで黙って聞いていたあなたの存在に気付いた時、私は確かにあなたを欲したのです。全ての出会いには意味があるのだと、この出会いは必要不可欠なものだと理解したのです。
だから私はあなたに話をするのです。なのにあなたはいつもにこにこと笑ったまま「面白い話をするね」と言います。許せません。私が望むあなたは今のあなたとは違う、私の話を真剣に聞くあなたなのです。だから私はあなたに話をするのです。あなたが私の望むあなたになる時をずっと待ち望んでいるのです。
あなたは何もわかってはいません。
「きみの話は難しいけど好きだよ」
そのような言葉を繰り返したところで、そのような顔を毎度したところで、あなたは私の「欲しいもの」でしかなく、「欲しかったもの」では決して、決してないのですよ。
解説
2021年07月05日作成
このひとときはきっと幸せだ
私はあなたのことを決して認めませんからね!
ツイッター診断メーカー「あなたに書いて欲しい物語3」から【あけるさんには「欲しいものほど手に入らない」で始まり、「全ての出会いには意味があるらしい」がどこかに入って、「何もわかっていないんだね」で終わる物語を書いて欲しいです。】というお題から。
ツンデレのお話。久しぶりにお題を使ったのは何も思いつかなかったからです。たまにやると面白いね。可愛い話になったんじゃないかなあと思いますがはてさて。
最初はAIっぽさをイメージしていたんですが、堅苦しい人が語り部でも良いなあと思いこうなりました。堅苦しい文章を書きたくなる時が不意にある。ありふれた言葉を無感情な正論で定義するのが好きです。実際それを耳元でされたら苛立つんでしょうけど。
Why, let the strucken deer go weep,
The hart ungallèd play:
For some must watch, while some must sleep;
Thus runs the world away.
(c) 2014 Kei