短編集
42. トムの首飾りは秋の色 (1/1)


 もうすぐ一年に一度きり、大切な日がやってきます。けれどおじいさんは慌てん坊、うっかりすっかりトムの首飾りを無くしてしまいました。さあさあ大変、大騒ぎ。あちこちトムの首飾りを探します。
「ここらに落とした気がするのだけれど、やあやあどうしたものかなあ」
「もしもし白髭のあなた様、何かお困りなのですか? 私でよければお話を、聞かせてくれはしませんか?」
 そう話しかけたのは背の高い草。かくかくしかじか、おじいさんは草へと話しました。
 すると草は細い葉を、ゆらゆらサラサラ揺らします。
「私はこの秋限りの出番なのです。ここらでお見かけしない白髭の、異国の方とのこの出会い、まさに奇跡と呼べましょう。どうか私の茎をトムの首輪にしてください」
 ススキと名乗ったその草を、おじいさんは編んでトムの首輪に仕立てます。ススキは嬉しそうに「良い思い出になります」と笑いました。
 けれどおじいさんは悩みます。
「トムの首飾りはピカピカ光るのが定番なんだ。編んだススキでは光らない。さあさあどうしたものかなあ」
「もしもし白髭のあなた様、何かお困りなのですか? 私でよければお話を、聞かせてくれはしませんか?」
 そう話しかけたのはお月様。かくかくしかじか、おじいさんはお月様へと話しました。
 するとお月様はくるくる回って体をピカピカ光らせます。
「私はこの秋限りの出番なのです。ここらでお見かけしない白髭の、異国の方とのこの出会い、まさに奇跡と呼べましょう。どうか私をトムの首飾りへ括り付けてください」
 中秋の名月と名乗ったその月を、おじいさんはススキの首輪へ括り付けました。中秋の名月は嬉しそうに「良い思い出になります」と笑います。
 けれどおじいさんは悩みます。
「トムの首飾りはリンリン鳴るのが定番なんだ。編んだススキと中秋の名月では音が鳴らない。はてはてどうしたものかなあ」
「もしもし白髭のあなた様、何かお困りなのですか? 私でよければお話を、聞かせてくれはしませんか?」
 そう話しかけたのは小さな虫。かくかくしかじか、おじいさんは虫へと話しました。
 すると虫は背中の羽でリンリン音を立てました。
「私はこの秋限りの出番なのです。ここらでお見かけしない白髭の、異国の方とのこの出会い、まさに奇跡と呼べましょう。どうか私を中秋の名月の中へ入れてください」
 スズムシと名乗ったその虫を、おじいさんは中秋の名月の中に入れました。スズムシは嬉しそうに「良い思い出になります」と笑います。
 ススキと中秋の名月とスズムシでできた首飾りを持って、おじいさんはニコニコと国へ帰ります。トムの首飾りは見つからなかったけれど、代わりにとても素敵なものに出会いました。なんて綺麗な首飾り。トムも立派なツノを振り振り喜びます。
「年に一度の楽しみが、さらに楽しいものになりそうだ!」
 秋が終わった後の夜、耳を澄まして空を見上げてごらんなさい。リンリンと音が聞こえるでしょう? ピカピカと光が見えるでしょう?
 白髭のおじいさんを乗せたトナカイのが、冬の夜空を駆けているでしょう?


解説

2021年08月31日作成

 トムの首飾りは秋の色
 みんなで空を飛ぶ日が待ち遠しいね。

 外で鈴虫が鳴いていたので書きました。こういう、同じ文章を少し変えながら繰り返すの好きですね。絵本が好きだった影響でしょうか。
 本当は秋らしいお話を書きたかったのだけれど、どちらかというと冬な感じになりました。でもこれはこれで好き。トナカイとおじいさんとススキと月と鈴虫が楽しそうに空を駆けている様子なんて絵本チックですね。自分がやがて必要とされなくなるのを理解しているもの悲しさとそれを払拭する良い友達に会えた嬉しさが伝われば幸いです。


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Why, let the strucken deer go weep,
The hart ungallèd play:
For some must watch, while some must sleep;
Thus runs the world away.


(c) 2014 Kei