短編集
23. ふたりおに ごっこ (2/2)
夕陽が沈みかけている公園の中、十をコールした私は息を吸い込んだ。
「――ふたりおにごっこをはじめましょ」
憧れのあの子と私、ふたりきりの楽しいひとときをはじめましょ。
そうわくわくしていたのに。
「……あれ?」
ふと周囲を見渡す。
公園の中、あの子の姿はなかった。足音も息づかいもない。
「ちょっとーかくれんぼじゃないんだよー?」
滑り台から離れて、公園の中央、見晴らしの良い場所へ行くことにした。公園全体が見渡せる場所だ。そこならきっと君を見つけることもできるだろう。もしかしたらまだ作戦を考えているのかもしれないし、もしかしたら君に何かあったのかもしれない。
そう思ったのだけれど。
「……え?」
見渡せど見渡せど、この目に映るのは夕陽に照らされた遊具ばかり。
「なんで……?」
君の姿はない。
――いつの間にか二人じゃなくなってるんだって。
私の言葉とあの子の怪訝な顔を思い出す。
「な、に……からかっただけだよ……!」
きっとあの子は、私の嘘に呆れて帰っちゃったんだ。
大好きなあの子ともっと一緒にいるための嘘だったのに。
夕暮れに冷える体を抱きしめて、私はあの子のいそうな場所へ走る。
そうだ、きっとあの子は昔近所の子とかくれんぼをした時みたいに、あの大きな木の裏にいる。そうじゃなくても、その近くで身をひそめて私に呆れている。
公園の木は夕陽の下でもやはり堂々としていて、でも赤い光を浴びてしなびているように見えた。私はその色の奥に君の姿を探す。
「×××!」
けれど。
「……え?」
見つけたのは、あの子の。
あの子と同じ。
夕日のように赤い四肢の。
「……×××?」
そっと名前を呼ぶ。
「×××」
もう一度。
「×××……!」
返事をしてよ。
「×××!」
「――ごーお、ろーく」
突然声が聞こえた。低くて落ち着いた声。
「×××……!」
あの子の名前を呼んで、振り返って、私は、目を見開く。
――え?
「なーな、はーち」
いつの間にか書かれていた二重丸の中で聞き慣れた声を発して、彼女は見覚えのある顔を夕陽色の歪んだ笑みに変える。
「きゅーう」
聞き慣れた声で、長い髪の彼女は数を数える。
「……誰」
私の知る彼女が楽しそうに――愉しそうに、笑う。
「――ねえ、逃げなくていいの?」
「誰……!」
歪んだ笑顔のまま、彼女はわたしに手を伸ばしてくる。わたしは一歩後ずさって――そして、気付く。
彼 女 も 鬼 だ 。
「つかまえた」
2015年03月31日作成
私にしては珍しい女の子三人のお話。「ふたり/おにごっこ」ではなく「ふたりおに/ごっこ」なのがミソ。ふたりでおにごっこをしたのではなかったということ。
ホラーっぽいのを書いてみたかった。死体の様子をちゃんと書いてもっとグロくなってたはずだったんだけどグロい描写丸々削ったなこれ。
Why, let the strucken deer go weep,
The hart ungallèd play:
For some must watch, while some must sleep;
Thus runs the world away.
(c) 2014 Kei