短編集 -風鈴荘
1. オカルト嫌いが怪奇現象究明を手伝わされました (7/7)


「あの……メディウム」
 夕焼けが綺麗な帰り道、田んぼの中を歩きながら声をかける。前を歩くメディウムが顔だけ向けてきた。
「何だ」
「……あの神様、寂しくて竜巻起こしてたってことですか?」
「彼女はまだ幼いからな。感情をコントロールできなかったのだろう」
「自分の土地を襲うなんてことまでして?」
「幼いとはそういうことだ」
「はあ……」
 よくわからない。
「……僕が行く意味あったんですか?」
「彼女のもとを何度が訪ねてはみたが、ああやって竜巻で追い出された。そなたがいたから姿を現したのだろうな」
「はあ……」
 これまたよくわからない。
 しばらく沈黙する。ふとメディウムが口を開いた。
「そなたは自分を偽っているのか?」
 唐突な問いに、一瞬足を止める。
「……はあっ?」
「そなたはオカルトが嫌いだと聞いた。神をそれと同等に扱って良いのかわからぬが、そなたにとっては神も非科学的な存在だろう?」
「まあ……」
「しかしそなたは彼女を受け入れた」
「そりゃ、あんな力を見せつけられれば……」
「リオウ」
 立ち止まり、メディウムはこちらを見上げてきた。暗くなりつつあるのに、しっかりと目を合わせられる。そして、気付いた。
 あ。
「そなたは」
 メディウムの目は、深い青だ。
「本当は非科学的なものに抵抗はないのではないか?」
 黒に見間違えるような、空よりも海よりも深くて濃い青の瞳が、見つめてくる。数秒のことだった。
「……まあ良い」
 スッと視線を外し、メディウムはまた歩き出す。いつの間に感じていたのだろう、重圧が消え、ほっとする。慌ててメディウムの後ろを歩く。
「そういえば」
「何だ」
「僕の……えっと、ツキモノ? って結局何ですか?」
「ああ、それか」
 しばらく考え込み、メディウムはにやりと笑った。その幼さのある顔には似合わない、意地悪な表情。
 ああ嫌な予感。
「そなたには――

***

――神様?!」
 咲が叫ぶ。畳に爪を引っかけながら話を聞いていたカラスが、ふるると頭を振った。
「叫ばないでいただきたいな姫君」
「あ、ごめんなさい」
 しゅんとなった咲に微笑み、メディウムが言う。
「神というと語弊があるが、リオウに危害を加えない上人外を引きつけるという点において神に近い」
「人外?」
 咲が身を乗り出す。
「アヤカシの類いといったところか」
「アヤカシ!」
「厄介ごとに良く巻き込まれるな」
「厄介ごと!」
 咲の声は依然として明るい。
「リオウ」
 名前を呼ばれ、ようやくハッと我に返る。
「……え」
「またここに来てはくれぬか」
「……は?」
 メディウムが微笑む。
「そなたがそばにいれば、引き付けられてくるモノにより多く会えるからな」
「会えるって、ろくなもんじゃないんですよね? 今日みたいなよくわからないカミサマとか……」
 何で、と言う前に、メディウムがくすり、と笑った。
「わからん」
「は?」
「私が彼らに関わりたいから、そうしているまでだ」
 にこやかに言った。
「リオウには私の趣味を手伝ってもらう形になるが」
「趣味って……」
 いわゆる悪趣味というやつか。人でないものに自ら関わろうとするなんて。これこそ悪趣味だ。
 正直言うと、お断り申し上げたい。
「良いなあ、リオ」
 しかし咲がうらやましそうに見上げてきた。その角度やめて、お願いだからやめて。心臓が変に動悸するからやめて。
「い、良いなあって……」
「だって不思議な現象に立ち会えるんでしょ? 不思議な体験いっぱいできるんでしょ?」
「いや、だから……」
「メディウムさんのお願い、聞いてあげないの? お願いされてるのに?」
 だから、上目遣いは反則ですって。
「聞いてあげてよ? メディウムさんがかわいそうだよ?」
「……聞きます、聞きますから」
 言ってしまった。
「ほんと?」
 ぱあっと表情を輝かせる。ああ、デジャヴ。
「良かった! じゃあ、一緒に来ようね! 約束だよ!」
「咲……やっぱり僕を利用したいだけじゃ……」
「楽しみだなあ! アヤカシ、幽霊、神様! もう夢みたい!」
 うっとりとした顔で、胸の前で手を組んで想像に浸っている。そういう幸せそうな顔をされたら、文句も言えない。
「……わかりましたよ咲様」
 大きくため息をつき、頭をかかえた。

***

 こうして始まった奇妙な物語に、僕は否応なく巻き込まれていくことになる。


解説

2014年03月19日作成
 怪奇現象を巡るお話が書きたかったから書き始めたお話だったと思います。当時長いタイトルや二次元めいた名前が流行っていたのよね。それをやってみたかったというのもある。なろう系のあらすじタイトルではなく、ただ無駄な字列を並べるタイトルが流行った時があるんですよ。そこからなろう系のあらすじタイトルの流れになっていった気がします。たぶん。そんな気がする(根拠はない)。
 夏目友人帳さんと近い雰囲気というか方針になっているんですが、当時夏目友人帳さん全然知らなかったのでした。たぶんHOLICの影響出てる。風鈴荘を書くために妖怪辞典を買って、妖怪さんや神様や怪異現象やそういった類いのモノとの交流を書く予定でした。
 李桜に憑いていた何かが何だったのか、当時はしっかり決めていたんですが今はほぼ覚えていません。何だったかな? 失くし物を探すが如く「当時の私ならこう発想しているはず…」って考えて行きつく答えはあるんですけど、それをどういうストーリー展開で判明させようかとか祓うのかどうするのかとかは全く覚えていません。すまんな、李桜!


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Why, let the strucken deer go weep,
The hart ungallèd play:
For some must watch, while some must sleep;
Thus runs the world away.


(c) 2014 Kei